トランプ次期大統領の台湾・中国での商標戦略

企業経営においてブランドは最も重要である。多くの企業が商標保護の出願方法を知らず、特に予算が限られている場合には、数を絞り質を重視する傾向がある。これは初期の事業運営の考慮によるものである。2024年11月、アメリカでは「川普」（トランプの中国語訳）が大統領に再選された。周知のとおり、トランプ氏は有名な実業家でもあり、同氏の事業は不動産、レストラン、ホテル、ゴルフ場、ショッピングモール、ワイナリーなど多岐にわたる。ここでは、台湾および中国における同氏の商標戦略をまとめ、企業の商標出願の参考になれるとことを期待する。

台湾・中国における商標出願の状況

トランプ氏の台湾と中国における商標出願の状況を比較すると、完全に一致しているわけではない。これは両地域での事業戦略の違いによるものと考えられる。台湾では、事業範囲や市場投入の程度を考慮し、主要な商標のみを出願する「一出願多区分」方式が採用されている。具体的には「TRUMP」と「川普」（トランプの中国語訳）の2つの商標が登録されている。

• 「TRUMP」商標（登録番号：01260067）は、不動産仲介、不動産管理（第36類）；不動産開発および建設サービス（第37類）；レストラン・ホテル（第43類）に指定して登録されている。
• 「川普」商標（登録番号：01401952）は、上記の区分に加え、ゴルフクラブ施設の提供（第41類）も含まれている。

出願人いずれも「DTTM OPERATIONS LLC」である。また、「TRUMP」を単独で酒類（第33類、登録番号：01976321）にも出願しており、こちらの出願人は「TRUMP WINE MARKS LLC」である。台湾での商標出願はわずか3件であるが、これは主力商標にのみコストを集中する戦略の一環といえる。

一方、中国での商標出願件数は128件にのぼり、台湾の16倍以上である。中国では「一出願一区分」方式を採用しているため、出願数が多くなっている。

中国での商標出願戦略の理由

中国で「一出願一区分」方式を採用する理由としては、以下が考えられる。

• 迅速な権利取得：出願を分割することで、早期に商標権を取得できる。
• 審査リスクの軽減：中国の商標法（中華人民共和国商標法第42条）により、同一・類似商品での商標移転が必要な場合、迅速な対応が求められる。
• 模倣品対策：模倣品の氾濫が多いため、早期の権利取得が望ましい。

トランプ氏の中国における商標出願の特徴と戦略

トランプ氏の中国における商標出願には、多くの組み合わせが存在する。その多くは「姓」を基軸とし、「姓名との組み合わせ」や「営業所名との結合」が見られる。また、中国語の特性を踏まえ、音訳も併せて商標出願している。例えば、台湾では「TRUMP」を「川普」と呼ぶことが多いが、中国では「川普」や「特朗普」という呼称も存在する。そのため、中国では台湾よりも多様な組み合わせで商標が出願されており、商標権の包括的な保護を図っている。

特に、トランプ陣営が選挙中に掲げたスローガン「Make America Great Again」を基に、帽子、旗、マグカップ、衣類、バッジ、キーホルダーといった関連グッズが次々と登場した。これに対し、トランプ氏は2015年8月13日、米国で第16類、25類、26類、35類、36類、41類、45類の商標出願を行い、登録番号5020556として登録を受けた。その中には、「TRUMP」と「Make America Great Again」の組み合わせによる商標も含まれている。

さらに、コスト面の理由から多くの国の製品が中国で製造される現状を踏まえ、トランプ氏は「TRUMP」、「特朗普」、「川普」、「THE DONALD J.TRUMP SIGNATURE COLLECTION」といった商標を中国で第25類（衣類）に出願し、商標専用権を取得している。その結果、これらの登録商標を使用する場合には、トランプ氏の許可を得てライセンス料を支払う必要がある。トランプ氏自身も製造・販売・マーケティングを行うことが可能である。商標の早期登録により、関連グッズの販売を通じて選挙資金を調達し、広告活動に充てることができたといえる。トランプ社の商標戦略は、企業の商標出願の参考となり得る。

商標権の管理とビジネス展開の可能性

台湾の商標法では、商標権の範囲は「製造、販売、ライセンス、譲渡、担保、権利保護」を含むと規定されている。商標権者は自ら製造することも可能であり、製造設備がない場合は他者に委託し、自らのブランドを付して販売することもできる。また、フランチャイズ展開やライセンス供与により、ブランド使用料を徴収することも可能である。

さらに、商標は無体財産権であり、企業資産の一つである。商標権者が商標を使用する意図がなくなった場合、第三者に譲渡して商標の価値を現金化することもできる。長年にわたるブランドの使用によって知名度が高まり、商品価値が増した場合、資金調達のために担保に入れることも可能である。商標には専用権があり、企業の「盾」として他者の模倣を防ぐ役割を果たす。商標権侵害が発生した場合、訴訟を提起し、損害賠償や和解交渉を行うことができる。

「一つの商標が手元にあれば、無限の可能性が広がる」。商標を継続的に使用することでその価値を高め、無形資産の価値を増加させることができる。資金需要が発生した際には、商標を売却して現金化することも可能である。たとえば、台湾の「黑面蔡」ブランドの楊桃ジュースの商標は3,000万台湾ドルで、「真鍋」コーヒーの商標は1,010万台湾ドルで売却された。

中国と台湾における商標戦略の違い

トランプ氏の台湾と中国における商標戦略の違いは、主に生産地や販売市場の比重を考慮して商標の出願件数や区分を調整していることに起因する。生産地および販売地で商標を登録することは、模倣品の発生を防ぐ上で極めて重要である。生産地での商標登録は、模倣品の製造を元から阻止する効果があり、販売地での商標登録は、税関での模倣品の摘発や市場への流入を未然に防ぐ効果がある。模倣品が市場に出回った場合でも、政府の強制力を活用してこれらを排除し、消費者の信頼を守り、企業のブランド価値を維持することができる。

まとめ

トランプ氏の商標戦略は、事業展開地域ごとに異なるアプローチを取ることの重要性を示している。企業においても、商標の保護を通じてブランド価値を向上させ、模倣品対策を強化することが求められる。本稿の内容が他企業の商標戦略の一助となれば幸いである。

出典：

1.https://jirs.judicial.gov.tw/GNNWS/NNWSS002-print.asp?id=8587&MuchInfo=&key=Serkey&CourtID=

2.https://time.udn.com/udntime/story/122390/7098562

3.https://tsdr.uspto.gov/#caseNumber=86724115&caseSearchType=US_APPLICATION&caseType=DEFAULT&searchType=statusSearch