台湾の智慧財産及び商業法院は、113年度民商訴字第8号の民事判決において、「SIEGWERK」の商標を巡る財産権紛争について、商標法第5条、第68条、第69条に基づく判断を示した。この事件は、ウェブサイトで真品を販売しながら他人の商標を表示する行為が「商標使用」または商標権侵害に該当するかが争点であった。
台湾の智慧財産及び商業法院は、113年度民商訴字第8号の民事判決において、「SIEGWERK」の商標を巡る財産権紛争について、商標法第5条、第68条、第69条に基づく判断を示した。この事件は、ウェブサイトで真品を販売しながら他人の商標を表示する行為が「商標使用」または商標権侵害に該当するかが争点であった。
事件の概要
原告(商標権者)は、台湾の経済部智慧財産局に「SIEGWERK」に関する複数の商標(第01905869号、第01905886号、第01905887号)を登録し、これらの商標は現在も専用期間内にある。原告は2022年、被告である「保瀚数位行銷有限公司」に対し、同社が運営するウェブサイト「覓思購」(meeshop.com.tw)上で「SIEGWERK」関連商品を販売することを許可した。しかし、2023年10月25日に原告は弁護士を通じて被告に許可を終了する通知を送り、その後商標の使用を禁止した。
ところが、原告は被告が引き続きウェブサイト上で「SIEGWERK」商標に似た表示を使用しており、消費者に混乱を招くとして商標権侵害を主張。商標法第68条第1項・第2項に基づき侵害の停止と損害賠償165万台湾元を請求した。
被告の反論
被告は、販売している商品が原告の製品であり、「SIEGWERK」という表示は単なる商品の説明に過ぎないと主張し、商標法における「商標使用」に該当しないと抗弁した。
判決の要旨
裁判所は原告の請求を棄却し、訴訟費用も原告が負担するよう命じた。その理由として、以下の点が挙げられた。
1. 商標使用の要件について
商標法第5条に基づく商標使用には以下の要件があると判示された。
(1) 商標をマーケティング目的で使用していること。
(2) 商標の使用行為が必要。
(3) 関連消費者に商標として認識されるものであること。
被告がウェブサイトで使用した「SIEGWERK」の表示は、商品のブランド名として説明する目的であり、商標としての使用ではなかったとされた。
2. 具体的な判断基準
裁判所は、ウェブサイト上の表示形式を詳細に検討。「SIEGWERK」の文字は他の説明文と同じフォント、サイズ、色で表示され、特別に強調されていなかったため、消費者が商標として認識する可能性が低いと判断した。
3. 商品の説明に該当する
被告が販売していた商品は原告が製造した真品で、原告の商品ブランド名は「SIEGWERK」であり、また、「SIEGWERK」の前には、多くの場合「德國思威克」(ドイツ SIEGWERKの中国語)などの文字が付されている。したがって、被告がこの名称を使用することは、販売商品がそのブランドの真品であることを説明するためのブランド名の説明に該当する。
今回の判決の意義
今回の判決は、商標権侵害の判断基準に関する重要な示唆を提供している。本件では、被告が原告製品を販売する際に「SIEGWERK」という商標を表示していたが、これが商標の「使用」に該当するかどうかが争点となった。判決では、被告の行為が商標を商品の出所を示すための使用ではなく、単に商品の説明として行われたものであると認定された。この判断は、商標の使用が商標権侵害とみなされるには、その行為が消費者に対して商品の出所を誤認させる恐れがあるかどうかを慎重に検討する必要があることを示している。また、被告が商標に付加的な説明文を使用していた点も、誤認の可能性を排除するための措置として評価された。前記の判決は、商標権者の権利と真正商品の流通の自由との間で適切なバランスを取るための基準を示しており、商標法の適用における新たな指針となるものであるといえる。