一、判決番号:最高行政法院111(2022)年度上字第649号
二、争点:係争特許請求項1および請求項15は台湾専利(特許)法第26条第2項の明確な記載の規定に適合するか?
三、事件の経緯:
上訴人は、被上訴人である経済部智慧財産局(台湾特許庁)に2009年11月23日付けで「偽造防止電池パックおよびその認証システム」に関する発明について特許出願を行い、同出願は2013年11月27日付けで特許査定となり、第I423140号 特許証書(以下、係争特許という)が発行された。その後、係争特許請求項1から27が、特許査定時の専利法第26条第1項、第2項、第4項および専利法施行細則第18条第2項、第22条第1項、第2項等の規定に違反しているとして、2020年3月26日付けで無効審判を請求された。これに対して上訴人は、2020年7月30日付けで係争特許の明細書および請求項1から68について訂正を申請した。当件は被上訴人による審査およびヒアリングを経て、上訴人の訂正が規定に適合していると認められ、当該訂正版に基づき審査が行われた。その結果、2021年10月18日付けの審決書((110)智専三(二)04059字第110009410号専利挙発審定書)において、「2020年(被上訴人が誤って2021年と記載した)7月30日の訂正事項が認められ、訂正が許可された。ただし、請求項1から27に係る特許の無効審判請求は成立するため、該当部分の権利は取り消されるべきである」という主旨の処分(以下、「原処分」という)が言い渡された。上訴人は、無効審判請求が成立した部分について、行政程序(手続)法第109条の規定に基づいて行政訴訟を提起し、原処分のうち、「請求項1から27に係る特許の無効審判請求は成立するため、該当部分の権利は取り消されるべきである」との審決を取り消すよう申し立てた。 本件上訴は、智慧財産及商業法院(知的財産及び商業裁判所、以下「原審」という)が行政判決(110(2021)年度専訴字第66号、以下、「原判決」という)により訴えを棄却した後に提起された。
四、係争特許の紹介
(一)、係争特許が解決する技術的問題
本発明は電池パックに関し、特に、偽造防止電池パッおよびその識別システムに関する。電動車両やハイブリッド車に使用される電池パックは、安定した電力を供給する必要があるため、内部の電池セルの製造コストは比較的高価である。そのため、悪徳業者に狙われ、彼らは正規メーカーのケーシングに入った電池セルを安価な代替品とすり替え、何も知らない自動車メーカーや消費者を欺くことがある。上述の既存の電池パックの欠点を踏まえ、本発明の主な目的は、電池パックの偽造の可能性を大幅に低減し、消費者の権利と利益を保障できる偽造防止電池パックおよびその識別システムを提供することである。
(二)、 請求項1で定義される技術的特徴:
ケーシングと、前記ケーシングの内側に取り付けられた複数の電池セルとを含む偽造防止電池パックであって、各電池セルは電池本体および保護層を含み、前記電池本体には第1の識別符号を格納する内部識別子が設けられ、さらに、電池本体の外側に取り付けられた保護層には外部識別子が設けられ、前記外部識別子には第2の識別符号が格納される、偽造防止電池パック。
(三)、 識別符号関連技術の内容
明細書【0018】段落の内容は以下のとおりである。
第1の識別符号および第2の識別符号を読み込むこと(431)。
数学アルゴリズのような照合関係を読み込むこと(432)。
前記第1および第2の識別符号が前記照合関係を満たすか否か、すなわち事前に格納された電池パックのシリアル番号またはバッチ番号に対応するか否かを判断すること(433)。
第1および第2の識別符号を前記数学アルゴリズムに当てはめて得られた結果と電池パックのシリアル番号またはバッチ番号を照合し、結果が一致すれば電池セルまたはケーシングが正規品であることを意味し、一致しなければ偽造品であると判断し、判断結果を出力し、テキスト、光または音によってひとつ前のステップの判断結果を表示すること(434)。
五、法院(裁判所)の見解
係争特許の請求項1および15には、電池本体に内部識別子が設けられ、保護層に外部識別子が設けられ、保護層が電池本体の外側に取り付けられ、内部識別子には第1の識別符号が格納され、外部識別子には第2の識別符号が格納されることが記載されているだけであり、「第1の識別符号」と「第2の識別符号」が相互に一定の対応関係を有する必要があることは記載されていない。そのため、係争特許の技術分野において通常の知識を有する者であっても、係争特許請求項1の記載内容のみからその意味を明確に理解して電池セル(パック)の真偽を確認するという発明の目的を達成することはできない。したがって、係争特許請求項1および15には必要な技術的特徴の記載がないため、請求項1から14、15から27は不明確であると考えられ、係争特許の査定時の専利法第26条第2項、第4項および専利法施行細則第18条第2項の規定に適合しておらず、審決に誤りはないと判断する。
六、同特許請求項は専利法第26条第2項の規定に適合する
請求項28:偽造防止電池パックおよび識別装置を含み, 前記偽造防止電池パックは、ケーシングと、前記ケーシングの内側に取り付けられた複数の電池セルとを含み、各電池セルは電池本体および保護層を含み、前記電池本体には第1の識別符号を格納する内部識別子が設けられ、さらに、電池本体の外側に取り付けられた保護層には外部識別子が設けられ、前記外部識別子には第2の識別符号が格納され、前記識別装置は、前記内部識別子と接続してそこに格納された前記第1の識別符号を読み込むための第1の読取装置と、各電池セルの前記外部識別子の前記第2の識別符号を読み込む第2の読取装置と、前記第1の識別符号および前記第2の識別符号を得るために前記第1の読取装置および前記第2の読取装置に電気的に接続し、内部に識別手順が組み込まれた主制御器と、前記主制御器に電気的に接続して前記主制御器によって駆動される警報装置と、を含む、偽造防止電池パックの識別システム。
七、結論
特許出願請求の範囲を策定する際には、独立請求項の範囲はできるだけ広くすることが望ましいため、限定する技術的特徴はできる限り減らしたり、従属請求項に記載したりする。ただし、特許が解決しようとする技術的問題には、依然として特別な注意を払う必要がある。請求項には、問題を解決するために必要な技術的特徴を含める必要があり、それが含まれなければ、不明確であると判断されやすい。仮に、後続の従属請求項においても、関連する必要な技術的特徴やその延長の技術的特徴が定義されていない場合、行政救済の際に、関連する請求項全体が無効と判断される可能性が高くなる。本件の場合、請求項1に記載の第1の識別符号および第2の識別符号の主な技術的特徴に関し、請求項では両者の相互関連性が明確に開示されていないが、明細書全体の記載を確認すると、この二つの符号が相互に照合されることにより認証の効果が得られることが分かる。したがって、請求項ではこれらの二つの構成要素の間の技術的特徴が欠けているため、不明確となった。しかし、係争特許請求項28では関連する必要な技術的特徴が開示されているため、明らかに対照的である。