発明の一構成要素を輸出して国外で組み立てても特許侵害にならず
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発明の一構成要素を輸出して国外で組み立てても特許侵害にならず

発明の一構成要素を輸出して国外で組み立てても特許侵害にならず

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1. はじめに(判決の要旨):

2017年2月22日、米国最高裁判所はライフ・テクノロジーズ社(Life Technologies Corporation)とプロメガ社(Promega Corporation)の訴訟(Docket No. 14-1538)において、複数の構成要素から成る発明の製品のうち、単一の構成要素を米国外に供給して製品を組み立てることについては、米国特許法(35 U.S.C)第271 条(f)(1)に規定されている特許権の寄与的侵害(contributory patent infringement)の責任を問わないとする判決を全裁判官一致で下した。

 

2. 事案の概要:

プロメガ社はTautz特許(米国再発行特許37,984)の専用実施権者である。Tautz特許は遺伝子検査に用いるキットに関するものであり、(1)複製したいDNA鎖の一部を示す数種類のプライマーの混合物、(2)複製されたDNA鎖を形成するヌクレオチド、(3)Taqポリメラーゼと呼ばれる酵素、(4)増幅用の緩衝液、(5)コントロールDNA、の5つの構成要素を含む。ライフ・テクノロジーズ社は遺伝子検査キットの製造者である。プロメガ社はライフ・テクノロジーズ社に、法執行機関で鑑定時に使用される遺伝子検査キットを製造するためのTautz特許の再実施を許諾した。ライフ・テクノロジーズ社はこのキットのTaqポリメラーゼ以外全ての構成要素を英国で製造し、Taqポリメラーゼを米国で製造した後に英国の工場へ輸送して他の4つ構成要素と合わせて組み立てていたが、再実施権契約の4年後、ライフ・テクノロジーズ社がキットを実施権範囲外の臨床および研究開発市場に販売することにより特許権が侵害されたとして、プロメガ社はライフ・テクノロジーズ社を提訴した。プロメガ社は、ライフ・テクノロジーズ社が米国からTaqポリメラーゼを英国の製造工場に供給することが米国特許法(35 U.S.C. )271 条(f)(1)の規定に反すると主張した。

 

3. 参照法条:

米国特許法(35 U.S.C.)第271条(f)(1)には次のように規定されている。

「特許発明の構成要素の全て(all)または実質的な部分(substantial portion of components)を、米国内においてまたは米国から、正当な権限なしに供給しまたは供給せしめた者は、その構成要素の全体または一部が組み立てられていない状態であっても、米国外においてこれらの構成要素を組み立てることを積極的に誘引するように供給し、米国内で組み立てられたことにより当該特許の侵害となるときは、侵害の責任を負う。」

 

4. 各裁判所の判決過程:

米国地方裁判所において審理の際プロメガ社が提出した証拠によれば、製品中の1つの構成要素(Taqポリメラーゼ)のみが米国から供給されており、同裁判所は米国特許法(35 U.S.C.)第271条(f)(1)における“実質的な部分”という文言は単一構成要素の供給を含まないと解釈し、特許侵害は成立しないと判断した。

その後、CAFC(連邦巡回控訴裁判所)は地裁の判決を覆した。CAFCは、“実質的(substantial)”の辞書の定義は“重要(important)”または“本質的(essential)”であり、単一構成要素は構成要素の“実質的な部分”になり得るので、Taqポリメラーゼはキット中の中心的(main)かつ主要(major)な構成要素であるとし、ライフ・テクノロジーズ社は特許権の寄与的侵害の責任を負うべきであるという判決を下した。

そして最高裁はCAFCの判決を覆した。最高裁はUnited States v. Williams 事件(533 U.S. 285. 294 (2008))の判決を引用し、“全て(all)”および“部分(portion)”の二語は辞書の定義によれば、いずれも量的な意味を有するとし、“実質的な部分(substantial portion)”は“一特許発明の構成要素(of the components of a patented invention)”により修飾されているので、“実質(substantial)”という文字は米国特許法(35 U.S.C.)第271条(f)(1)の上下文から推敲して量的意味を暗示するという読み方が理に適うとした。また、どれか1つの構成要素が欠けているという条件下で実施できる発明は非常に少ない。仮に裁判所や特許権の寄与的侵害の責任を免れたい製造者が、1つの発明中の各構成要素の相対的な重要性を決定することは難しい。このため最高裁は“実質的な部分”が質的意味を有することを認めなかった。

次に、最高裁は米国特許法(35 U.S.C.)第271条(f)(1)の“構成要素(components)”は複数であることから、構成要素が複数であって初めて“実質的な部分”を構成できるとした。また、Deepsouth Packing Co. v. Laitram Corp.事件(406 U. S. 518 (1972))の最高裁の判決を受けて米国特許法(35 U.S.C.)第271条(f)(1)および第271条(f)(2)が制定されたのは、特許権侵害の定義を、米国から供給された特許発明の構成要素にまで拡大して、構成要素を米国内で製造して米国外で組み立てるという行為は特許権の侵害行為にあたるとみなすことで、特許権の行使可能性の抜け道を塞ぐためであった。したがって、供給者が特許発明の全てまたは実質的な部分の構成要素(複数)を米国から供給することは、その後の組み立てが米国外で行われたとしても権利侵害を構成することになる。しかし、製品中に含まれるの複数の構成要素のうちの単一の構成要素を国外に供給して組み合わせた場合、供給者は特許権の寄与的侵害による責任を問われることはない。

  

5. 当所のコメント:

最高裁は、Microsoft v. AT&T 事件(550 U.S. 437 (2007))で、マイクロソフト社が米国からソフトウェア・コードを米国外に供給して米国外で販売されるコンピューターに搭載することは米国特許法(35 U.S.C.)第271条(f)(1)の特許権の寄与的侵害に該当しないとして、AT&T側の敗訴となる判決を下した。このことから、最高裁は特許の治外法権的行使に対し、より慎重で控えめな態度をとっており、特許の治外法権的範囲を過度に拡大することはないことが分かる。

 

6.おわりに:

 残念なのは、本件に対する最高裁の判決では、特許発明の構成要素の“全て”と“実質的な部分”についての定義がなされていない点である。したがって、将来の特許権侵害事件において、特許発明中のどれほどの量または割合の構成要素が米国内から米国外に輸出されて組み立てられたら、米国特許法(35 U.S.C.)第271条(f)(1)における“実質的な部分”とみなされ、供給者が特許権侵害の責任を負うことになるかは、裁判所の個別判断に委ねられる。

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