スペシャルコラム
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一、判例:
ランボルギーニは世界の高級車の一つで富豪の象徴として認知され、その猛牛のエンブレム(上左図)は世界的に広く知られている。中国では某企業が「猛牛」の図形(上右図)について保険、銀行、金融サービス、美術品鑑定、不動産業、代理業者、担保、慈善基金、信託、質屋等を指定役務とした商標を登録出願した。これに対し、イタリアのランボルギーニ社は異議申立を行ったが認められなかった。当事件について第二審である北京高級人民法院(高等裁判所)では、被異議商標は、その指定役務がランボルギーニ社の商標の指定商品・役務と異なるため、「ランボルギーニ社の商標と同一または類似の商標であり商標を使用する商品・役務が同一または類似であるもの」ではないと判断された。また、ランボルギーニ社は自社の「猛牛」のマークが著作権を有することの証明もできなかったため、被異議商標が同社の商標と類似しており、著作権を侵害しているという2点の主張による訴訟は失敗に至った。
二、争点
仮にランボルギーニ社が自社の「猛牛」マークを著名商標であると主張すれば、訴訟の目的は達成できたのか?
三、分析
(一)中国商標法第十三条第三項には「非同一または非類似の商品について登録出願した商標が、中国で登録されている他人の著名商標を複製、模倣または翻訳したものであるときは、その登録を拒絶する」と規定されている。著名商標とは、中国において関連する公衆に熟知された商標を指す。換言すれば、著名商標とは、大量の広告宣伝により高い名声を有し、関連する業者や消費者に一般的に認知された商標である。
(二)著名商標の特別な保護について、中国最高裁判所が明確化した司法解釈における定義によれば、著名商標の特別な保護の範囲は登録を前提としておらず、著名商標の登録を禁止する効力は非類似の商品や役務にまで拡張される。しかし、著名商標の権利拡張を制限しないと、他の事業者の正常な経営に影響が及び、限られた司法リソースが圧迫される。このことから、著名商標の区分を越えた保護には限界があることがわかる。
したがって、本件から見ると、ランボルギーニ社が主張する著名商標の保護範囲が、自動車の区分を超えて被異議商標の指定役務である保険、銀行、金融サービス等の区分に及ぶと判断されるのは難しいと言える。
四、結論
著名商標は簡単に作り出せるものではなく、通常は商標権者が広告宣伝に多くの費用や時間を費やし、積極的な権利保護を行って初めてその商標に高い経済的価値と名声がもたらされる。しかしながら消費者の注目を集めると同時に、この知名度に便乗するライバル業者が現れ、消費者に商品や役務の出所を誤認混同させ、著名商標の識別性が弱まり、あるいは他人が築いた信用や名声にただ乗りをする者も出てくる。それ故に、商標法では著名商標を有する商標権者の法的権利を保護することを特に重視しているが、著名商標を区分を超えて保護するということは、全区分を保護することとなる。業種や区分を問わず類似するマークを使用する事業者を提訴して自己の権利を維持する行為は権利の乱用であり、事業者が著名商標の法的保護に対して抱く誤った期待と言える。