商標識別性の意義
商標の登録要件としての識別性とは、商品・役務の出所を示し、他人の商品・役務と区別する特性である。
標識に出所を示して区別する機能があるか否かは、消費者が標識全体に抱く印象によって決まり、標識により表現する外観、コンセプト、デザイン自体に含まれる意味から、出所を識別する商業的印象を与えるか否かで判断できる。
識別性の判断は、消費者の認知度だけでなく、商標と指定商品・役務との間の関係を考慮すべきである。
商標の識別性は先天的なものと後天的なものに分けられ、先天的な識別性は、商標自体の固有のものであり、使用により識別能力を取得する必要はない。
一方、後天的な識別性は、本来は識別性がない標識が、市場で使用された結果、消費者にその商品・役務の出所を認識させる識別性を有するようになったものであり、当該標識に商品・役務の出所を識別するという新たな意義が生じるため、第二意義とも言う。
先天的識別性を有する標識
標識が特定の商品・役務に用いられる際に先天的識別性を有すると認められるのは、消費者にとって当該標識が商品・役務の出所を示す場合であり、商品や役務自体又はその内容の関連情報を伝達するものではない。
競争者の観点から見れば、ある標識が、他の善意ある競合同業者が一般的取引において、商品・役務自体、その品質・機能又はその他特性に関する説明を表示するのに使用される可能性がない場合、当該標識は先天的識別性を有すると言える。
先天的識別性を有する商標は、その識別性の強弱に基づいて、独創的標識、恣意的標識及び暗示的商標に分けられる。 標識が特定の商品・役務に用いられる際に先天的識別性を有すると認められるのは、消費者にとって当該標識が商品・役務の出所を示す場合であり、商品や役務自体又はその内容の関連情報を伝達するものではない。
競争者の観点から見れば、ある標識が、他の善意ある競合同業者が一般的取引において、商品・役務自体、その品質・機能又はその他特性に関する説明を表示するのに使用される可能性がない場合、当該標識は先天的識別性を有すると言える。
先天的識別性を有する商標は、その識別性の強弱に基づいて、独創的標識、恣意的標識及び暗示的商標に分けられる。
独創的標識
「独創的標識」とは、既存の語彙や事物を援用したものではなく、知恵を活用して独創的に得られるものであり、商品・役務の出所を区別する機能のみを有し、いかなる商品・役務の関連情報も伝えないため、その識別性は最も強い。
▼登録事例:
-
「GOOGLE」:検索エンジンの役務に使用。
-
「」:自動車、乗用車の商品に使用。
-
「」: バッテリーの商品に使用。
恣意的標識
「恣意的標識」とは、既存の語彙や事物により構成されるが、使用する商品・役務の自体、その品質・機能又はその他特性とは関係がないものであり、指定商品・役務の関連情報を伝えるものではないため、消費者は出所を表示して区別する標識と見なす。
▼登録事例:
-
「蘋果 APPLE」:”コンピューター、データ処理装置の商品に使用。
-
「向日葵」:太陽熱集熱器の商品に使用。
-
「春天」:レストラン、旅館の役務に使用。
-
「」:衣類の商品に使用。
-
「」:ウィスキーの商品に使用。
暗示的標識
「暗示的標識」とは、隠喩により商品・役務の品質、機能又はその他の関連成分、性質などの特性を暗示するものであり、消費者に記憶されやすいが、競合同業者が通常商品・役務の説明に用いるものではない標識を指す。暗示的記述は、商品・役務の直接的記述とは異なり、消費者は一定程度の想像力、思考力、推理力をもってその標識と商品・役務との間の関連性を理解する必要がある。
▼登録事例:
-
「快譯通」:電子辞書の商品に使用。
-
「足爽」:水虫治療薬の商品に使用。
-
「」:データ保護及び安全性を提供するコンピューターソフトウェアの商品に使用。
-
「」:旅行用トランクの商品に使用。
記述的標識
記述的標識とは、商品・役務の品質、機能又はその他の関連成分、産地などの特性について、直接的かつ明瞭な記述のある標識を指す。
商品・役務の関連説明は、一般的な社会通念に基づいて、商品・役務自体の説明と密接な関係を有する場合、登録してはならず、必ずしも当該商品・役務を提供する者によって共同で使用されない。
例えば、レストランの役務に「焼肉」、枕やマットレスの商品に「記憶」、車両用ランプの商品に「HID」(High Intensity Discharge高輝度放電)」を使用する例がある。
また、業者が商品・役務の品質の優良性を示すものとして使用する、金メダルの図案や、「最高級」、「極上」などの用語も記述的標識に属する。
▼登録拒絶事例:
-
「(ワンクリックで完了の意味)」:コンピューターアニメーションデザインの役務に使用。
-
「(体にフィットする良品の意味)」:下着類の商品に使用。
-
「(美しい色の意味)」:ネイルポリッシュ、ネイルシールの商品に使用。
標識がその指定商品・役務の説明であるか否かの判断は、社会環境、消費者の認知、市場での実際の使用状況などに応じて、時間の経過とともに変化する可能性がある。
標識が、商品・役務の性質、品質又は産地などの重要な特性についての記述であるが、当該記述が事実ではなく、かつ消費者に誤認誤信させ、その購買意欲に影響する可能性がある場合、商標登録を受けることができない状況に該当する(商標法第30条第1項第8号)。
例えば、「LEATHER(皮革製の)」の標識が合成皮革の家具に使用された場合、消費者が家具を皮革製であると誤認して購入してしまうことが起こりやすいため、消費者の権益を考慮し、このような標識は商標登録を受けることができない。
標識の記述が事実ではないが、消費者に商品・役務の性質、 品質又は産地を誤認誤信させる恐れがなく、消費者の購買意欲に影響を及ぼすことがない場合は、恣意的商標に属する。
例えば、「LEATHER(皮革製の)」の標識がノンアルコール飲料に使用されても、消費者はこれによって当該飲料が皮革製であると信じることはないので、商標登録を許可することができる。
暗示的標識は先天的識別性を有する標識である。一方、記述的標識は先天的識別性を有しない標識に属するため、後天的識別性を取得したことを証明しない限り、商標登録を受けることができない。
しかし、「直接的記述」と「暗示的記述」を区別するのは難しいため、後天的識別性の取得を証明する必要がないまま直接登録を認めることが、競合同業者にとって不公平となるか否かが判断のポイントになる。
個別案件を判断する際、以下の要素を参酌することができる。
(1) 消費者の想像力が必要とされる程度
記述的標識は商品・役務の品質、機能、特性、内容などの要素を直接かつ明確に伝えるものであるため、消費者は想像や思考をほとんど必要としないが、暗示的商標は、消費者が商品・役務との関連性を理解するために、より多くの想像や思考を必要とする。
(2) 辞書的定義
辞書的定義に基づけば、一般人の視点から当該標識の説明性の程度を判断できる。
(3) 新聞、雑誌、インターネットの使用
広く普及している新聞や雑誌での使用状況を参考にすることにより、消費者の特定の語彙や事物に対する認知度を理解することができる。使用量や情報量がより多いインターネットも参考にできるが、インターネット上の情報は正確性と客観性の問題があるため、証拠としての使用には慎重さが求められる。
(4) 競争者が使用を必要とする可能性の程度
一般的に、商品・役務の直接的で明瞭な説明用語であるほど、競合同業者が使用を必要とする可能性は大きくなるため、記述的標識に該当する。記述が間接的で不明瞭な場合、競合同業者が使用を必要とする可能性は比較的小さいため、暗示的商標に該当する。
通用標章又は名称
通用標章は、業者が特定の商品・役務について共同で使用するマークである。通用名称は、商品・役務を示すものとして常用する名称であり、その略称、略字及び俗称も含まれる。
関連消費者にとって通用標章又は名称は、単に一般業者が商品・役務自体を表示するものに過ぎず、出所を識別する機能を欠いている。
例えば、「赤、青、 白の三色が回転するネオン」は理髪店の通用標章であり、消費者は出所を識別できないだけでなく、一人の独占排他権の取得により公平な競争に影響したり、訴訟により他人の当該用語の使用を妨害したりすることは避けるべきであるため、特定の者が登録を受けて独占的に使用することはできない。
▼登録拒絶事例:
-
「TAPAS」(タパス):はスペインの伝統的な居酒屋や小皿料理のことで、レストラン、ビアホール、バーの役務自体又は役務内容の通用名称である。
-
「」:は、使用過程において医師による経過観察を必要とし、医師による処方と薬剤師による調剤確認が必要な処方薬を指す薬品の通用標章である。
-
「 (USBメモリー)」:は携帯用記憶装置を指し、フラッシュメモリーの商品の通用名称である。
その他先天的識別性を有しない標識
単一字母、単一数字又は数字の羅列、簡単な線又は基本的な幾何学図形、装飾性又は付属性の図形、流行性の図形、純粋な情報性の図形、氏、呼称と氏の結合、宗教関連の図案、用語及び民俗文化のロゴマーク、標語、見慣れた祝いの言葉、縁起の良い言葉、流行語又は熟語などは、一般的社会通念に基づく既定の意味や用途を有しており、消費者がその出所を表示して区別する標識として認識できず、出所を識別する機能を欠く場合は、使用により後天的識別性を取得したことを証明できなければ、商標登録を受けることはできない。
▼登録拒絶事例:
-
「」:衣類の商品に使用。この簡単で不規則な線では、消費者は異なる商品の出所を区別することができないため、識別性を有しない。
-
「」:ジャーキーやソーセージの商品に使用。「曾」は単純な氏の概念に過ぎず、事業者の姓を指しているという印象しか与えず、出所を表示・識別する機能を果たしていないため、識別性を有しない。
後天的識別性を取得できる標識
先天的識別性を有しない標識は必ずしも商標登録を受けられないわけではない。当該標識が市場で使用され、消費者がすでに出所を表示・区別する標識であると見なしていることを出願人が証明できれば、当該標識は商標として商標登録を受けることができる。
このような識別性は使用により取得されたものであり、標識そのものに備わるのではないため、後天的識別性又は第二意義と呼ばれる。
記述的又はその他先天的識別性を有しない標識ではあるが、出願人によって使用され、すでに出願人の商品・役務の識別標識となっている場合、「後天的識別性」を取得したことになり、商標登録を受けられる(商標法第29条第2項)。
ただし、通用標章又は名称は、商品・役務自体を示すために必要なものであるため、市場における公平な競争秩序への配慮から、すでに使用されている場合でも、特定の出願人が独占的に使用することは認められない。
▼登録事例:
-
「V50」:自動車、トラック及びスポーツ用多目的車(SUV)の商品に使用。商品のモデル番号であるという印象を消費者に与え、もとは識別性を有しなかったが、出願人が使用したことにより出願人の商品を識別する標識となったため、後天的識別性を有すると認められた。
-
「(今夜、私がいただくのは)」:食品の宅配などの役務に使用。このフレーズは通俗的であり、もとは識別性を有しなかったが、出願人が広告・マーケティング関連書類を証拠として提出したことで、後天的識別性を有すると認められた。
-
「」:化粧品、ヘアケア商品などに使用。氏である「呂」とそれに対応する英語、韓国語を組み合わせたもので、もとは識別性を有しなかったが、出願人が広告・マーケティングに使用したことにより、出所を区別する機能が備わり、後天的識別性を有すると認められた。
-
「」:インターネット上における動画提供などの役務に使用。赤をベースとした再生ボタンの図案は、もとは識別性を有しなかったが、出願人の長期使用により、後天的識別性を有すると認められた。