識別性の審査――図形
図形はよく見られる商標態様であり、通常は識別性を有する。
ただし、簡単な線、基本的な幾何学図形又は装飾的な図案が商品・役務に関連する物品に表示された場合、一般的にはそれが商品・役務の出所を表示して区別する標識であるとは考えられないため、原則として識別性を有しないものとする。
また、図形が指定商品・役務に関する説明又は通用標章である場合も、識別性を有しないものとする。
簡単な線又は基本的な幾何学図形
簡単な線又は基本的な幾何学図形は商品・役務に使用されていても、通常は消費者の注意を引き難く、一般的には商品・役務の出所を指示し区別する標識であるとは考えられないため、識別性を有しない。
▼登録拒絶事例:
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「」:バッグ、衣類の商品に使用。簡単な線であり、出所を識別できないので、識別性を有しない。
装飾的又は付属的な図形
連続的で無限に延伸可能な図形、草花等自然界の事物又は幾何学図形から成る図案は、消費者に商品の模様又は商品パッケージの背景であると見なされやすく、通常は商品・役務の出所を表示して区別する標識と見なされないため、識別性に欠ける。
▼登録拒絶事例:
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「」:ベルト、スカーフ、帽子、手袋等の商品に使用。商品自体の模様という印象を与えるだけであり、出所を識別する標識ではないため、識別性を有しない。
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「」: シーツカバー、ベッドカバーの商品に使用。商品上の装飾図案であるという印象を与えるだけであり、出所を識別する標識ではないため、識別性を有しない。
商標の識別性の有無は、当該商標の図案全体が消費者に与える印象で判断される。
商標図案が複数の異なる図形で構成されており、組み合わされた後の図案が与える印象が商品自体の外観上の装飾図案にとどまる場合、識別性を有しない。
なお、単体の図形自体は識別性を有するが、これを商標として単独で使用するのではなく、複数用いて連続的で無限に延伸可能な方式で組み合わせた図案は、組み合わせた後の連続的な図案に対する消費者の認識が、商品外観の装飾又は背景にとどまり、出所を識別する標識ではない場合、識別性を有しない(非伝統商標審査基準8を参照)。
▼登録拒絶事例:
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「」:刺繍品、眼鏡等の商品に使用。本商標の出願人が既に商標登録した商標「」の図形を連続的に配置したデザインであり、指定商品の外観の装飾模様に過ぎないという印象を与え、出所を識別する標識ではないため、識別性を有しない。
商品自体又は役務に関連する図形
商品自体の形状又はその重要な特徴を示す図形は、商品自体の説明であり、一般的には、たとえ長期間使用されていても、後天的識別性を取得することはできない。ただし、特殊なデザインにより純粋な商品説明の範疇を超え、出所を表示して区別できるものは、識別性を有する。
商品自体の図形、その実物写真又は商品形状の重要な特徴と大差のない図形、特に明らかにデザイン性に欠けた写実的な図形を商標の一部として登録出願し、商標全体が識別性を有する場合、当該図形部分について商標権の範囲に疑義が生じるおそれがなければ、当該部分の専用権放棄の声明を行う必要はなく、登録が許可される。
▼登録拒絶事例:
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「」: マスクの商品に使用。マスク自体の形状を示す図形であり、商品の説明に当たる。
▼登録事例:
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「」:水産物のカニ類の商品に使用。カニの形状に特殊なデザインを施し、実物の外観からかけ離れ、単純な商品説明の範疇を超えているため、識別性を有する。
商品自体の形状や商品の原理・機能を示す図形、又は役務の内容を示す図形は、商品自体又は提供する役務に関する実際の形状と大差なく、通常、消費者は出所を表示して区別する標識とは見なさないため、識別性を有しないものとする。
ただし、抽象的な概念に基づいて描かれた図形は、そのデザインが実物の外観からかけ離れた印象であれば、識別性を有するものとする。
▼登録拒絶事例:
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「」: 電池や充電器の商品に使用。電池の残量や充電状態を示す図に過ぎないため、識別性を有しない。
▼登録事例:
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「」:トイレの便座、便器の商品に使用。抽象的で幾何学的な線でデザインされた図形であり、実物の外観とはかけ離れており、出所を表示して区別する標識であるため、識別性を有する。
商品・役務の説明に関する業界常用図形
ある業界ではしばしば商品のパッケージに決まった図形を使用する。例えば、第29類の牛乳商品のパッケージには乳牛の図形が、第30類のお茶飲料のパッケージには茶葉の図形がよく見られる。
このような図形は、業界において通常商品の内容、性質又は機能等特徴の説明に用いられるため、単純に実物を示したイラストや実物と大差のないデザイン性に乏しいイラストとして、消費者に商品・役務に関する説明という印象を与えるに過ぎず、出所を表示して区別する機能を備えない。
業界で常用される商品・役務を説明するための実物のイラスト、又は実物とほぼ同じ図形を商標の一部として登録出願する際、商標全体が識別性を有するが、当該図形部分について商標権の範囲に疑義が生じるおそれがある場合、出願人は「本願商標は『○○図形』について商標権を主張しない」旨を声明すべきであり、また、図形が複雑で個別の図形について専用権放棄の声明が困難な場合、「本願商標は『○○』以外の文字又は図形について商標権を主張しない」旨を声明すれば、登録が許可される。
▼登録拒絶事例:
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「」:電動交通手段の充電サービスに使用。バイクに電源プラグが接続されている図案であり、充電を提供する役務の内容に関する説明である。
▼登録事例:
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「」:鶏肉・鴨肉加工食品の商品に使用。業界で常用される家禽類を主として描いたものであるが、鳥を形作る線とハートマークを組み合わせたデザインにより実物とはかけ離れた図案であるため、識別性を有する。
流行性の図形
流行から派生したデザインの図形は、社会活動の中で特定のコンセプトを表現するものであり、審査時に既に公衆に認知され、社会における共通認識になっている図形で、かつ業者間でトレンドとなっている場合、消費者は出所を表示して区別する標識とは見なさないことが多いため、原則として識別性を有しない。
▼登録拒絶事例:
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「」:衣類の商品に使用。ハートマークを手指で表す流行性の図案であり、出所を識別するものではないため、識別性を有しない。
純粋な情報性の図形
商品の外観、画面上のインターフェイス又はパッケージ上などで、商品・役務の特定の機能、用途、特性を表すシンプルな図案を表示することは一般的であるが、これらが単に商品・役務自体に関する情報を伝達するものであり、消費者に出所を識別する商業的印象を与えるものでなければ、商標の構成要素に属さない。
商標図案全体が識別性を有し、その中に純粋に商品・役務自体の情報を表現した描写を含む場合、商標権の範囲を明確にするため、審査時に該当部分の削除を求める旨の通知がなされ、当該部分について専用権を放棄する声明を行う方法を取ることはできない(商標法施行細則)。
▼登録拒絶事例:
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「」:スポーツウェア、Tシャツの商品に使用。速乾性と通気性を示すイラストという印象を与えるだけで、純粋な情報性の図形に該当し、出所を識別するものではないため、識別性を有しない。
バーコードやQRコードなどは、マーケティングや販売において商品・役務に関する情報にアクセスするために使用される図形標識に過ぎず、商品・役務の出所を識別する標識ではない。
審査時に、図案に含まれる当該コード部分は削除するよう求める通知がなされる。
▼常見資訊性圖形:よく見られる情報性の図形
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「」:1次元バーコード。
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「」:QRコード。
商業外観デザインの図形
商品自体の外観の商業デザインに加え、文字、図形、デザイン性のある形状、色の組み合わせといったさまざまな異なる構成要素から成る商品のパッケージや外観デザインの図案は、製品の包装容器表面、包装紙、ラベル、サービス提供場所の外観やインテリア上によく見受けられ、このような異なる構成要素を組み合わせた図案が平面的な表示方式の図案として出願された場合、全体が単一の商業的印象を与え、出所を表示して区別する機能を有していれば、商標登録の範囲に属するものとする。
特に、商業外観デザイン全体が識別性を有する文字や図形を含む場合、原則として識別性を有するものとするが、情報性の事項を削除し、識別性を有しない部分について専用権を放棄する声明を行わないと、登録が許可されない。
▼登録事例:
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「」:お茶飲料の商品に使用。この図案は容器に貼るラベルを展開した図であり、図案上には商品名である「茶裏王」と後天的識別性を取得した「回甘就像現泡(淹れたてのような甘味)」等の文字が入っており、「日式無糖綠茶」、「Japanese Style Green Tea Sugar Free」の文字部分について商標権を主張しない旨の声明を行った後、登録が許可された。
▼登録拒絶事例:
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「」:魯肉飯、排骨飯等の商品に使用。図案は屋台風景の写真であり、消費者に当該飲食店の開店当時の懐かしの情景という印象を与えるに過ぎず、商品の出所を識別する標識ではないため、識別性を有しない。
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「」:エアコン洗浄剤の商品に使用。立体包装の展開図の形状をした図案であり、パッケージ上には説明性又は純粋な情報性の文字と図形が表示され、出所を識別する機能に乏しいため、識別性を有しない。