氏が商品・役務に使用されるのは、通常、単に事業主の氏を表示するためであって、競合同業者が同一の氏を使用すると、消費者は氏によって出所を識別できなくなる。
また、競争の観点から、同一の氏の競合同業者は、市場に参入した時期が先か後かを問わず、自由に自分の氏を使用する必要がある。
したがって、原則として、出願人が氏を商標とする場合、識別性を有さず、後天的識別性を取得したことを証明して初めて登録を受けることができる。
例えば、福特FORD、豐田TOYOTA、田中TANAKA、三井MITSUI、麥當勞McDonalds等のような外国の氏については、さまざまな商品・役務の商標として使用されるケースが多く、特に、音訳された文字が国内の消費者に認識されているため、識別性を有する。
▼登録拒絶事例:
▼登録事例:
氏名は原則として識別性を有する。他人の著名な氏名、芸名、筆名、別称等の商標登録出願ではない限り(商標法第30条第1項第13号)、また、その他の不登録自由がない限り、原則として登録を受けることができる。氏名が署名の形式で現された場合、その識別性は氏名と同様の判断原則が適用される。
▼登録事例:
「(蔡阿嘎 TSAIAGA)」:オンライン動画提供の役務に使用。インターネット上で人気の人物「蔡緯嘉」の芸名、本人の同意を得て出願後、登録が許可された。
▼登録拒絶事例:
他人の著名な氏名や芸名等の同音異義語を商標として使用する場合、指定商品・指定役務との間にユーモアと斬新な商業的印象が生じ、特定の著名人を指す意味合いから切り離されている場合には、登録を受けられる。
ただし、軽蔑的、侮辱的又は不敬なもので公序良俗を害する場合は、登録を受けることができない。 また、図案に含まれる他人の氏名、芸名、筆名、称号等が、著名ではなく、特定の人物の尊厳を傷つけたりネガティブなイメージを生じさせたりする場合も同様である(商標法第30条第1項第7号)。
▼登録事例:
▼登録拒絶事例:
著名な歴史上の人物の氏名が商品・役務の内容と関係がある場合、消費者はその内容を連想しやすいため、商品・役務の内容の説明と見なされる。
例えば、「唐太宗」又は「荘子」が第9類のビデオディスク又は第16類の書籍に使用されると、そのビデオディスク又は書籍の内容が唐太宗、荘子の物語又は紹介であると思わせるため(商標法第29条第1項第1号)、登録を受けられない。
著名な歴史上の人物のイメージは、社会教化機能を有することが多いため、指定商品・役務に使用されることで、人に不敬又は侮蔑といったネガティブな連想をさせ、公序良俗を害する場合は、登録を受けられない(商標法第30条第1項第7号)。
▼登録事例:
▼登録拒絶事例:
民衆が近代の著名な故人について依然として記憶している場合、その故人の氏名や肖像などの人格的特徴を商標や営業上のシンボルとして使用し、「経済的利益」を得ることは一般的である。
著名な故人の人格的特徴を表現した商標が経済的利益を生む場合、その相続人に相続させることが可能であり、審査では、その著名性の程度、使用の状況、指定商品・役務との関係などの他の要素を斟酌する必要がある。
著名な故人のイメージを不当に利用した商標の登録出願が行われた場合、指定商品・役務にかかわらず、市場における公正な競争の公共的な利益を守るため、又は相続人や配偶者が尊重されていないというネガティブなイメージを持たれるのを回避するため、公序良俗を害するか否かを判断すべきである(商標法第30条第1項第7号)。
ただし、出願人がその配偶者、相続人又は関連公益団体であり、市場における公正な競争の公共的な利益を維持することに影響せず、人々にネガティブな印象を与えない場合は、この限りではない。
▼登録拒絶事例:
▼登録事例:
肖像は高度な識別性を有するため、出願人が自己の肖像を商標とする場合、原則として、登録が許可される。
他人の肖像を商標として登録出願した場合、登録を受けることはできない(商標法第30条第1項第13号)。これは、個人の肖像権を保護するためであり、他人が死亡している場合は、本条項の保護対象にはならない。
「他人の肖像」は著名人に限らず、漫画やその他の芸術的手法で表現された肖像が特定の人物を指す場合も該当する。ただし、出願人が当該他人の同意書を提出した場合、本条項は適用されない。
▼登録事例:
デジタル技術の発達に伴い、出願人は、コンピューターグラフィックスや手描きによるリアルな肖像のイラストを作成できる。出願人が他人の肖像とは関係ないことを声明し、審査時に他人の肖像であることを示す他の具体的証拠がない場合、商標法30条第1項13号は適用されない。
出願人が声明しない場合、審査時に肖像権の所有者の同意を得ていることを通知するか、他人の肖像ではないことの釈明を行うことになる。漫画化やアニメーション化により表現されたものが、特定の人物の肖像の特徴を認識できない又は指し示すことができない場合、「図形」として審査が行われる。
▼登録事例:
肖像も氏名も特定の人物を指し示す機能を有するので、著名な歴史上の人物及び近代の著名な故人の肖像の審査には、氏名の審査原則(本基準4.6.2)が適用される。
▼登録事例:
▼登録拒絶事例:
例えば「紅楼夢」の林黛玉と賈宝玉、「水滸伝」の宋江、「西遊記」の唐三蔵(三蔵法師)と孫悟空などのような、書籍、映画、劇等の作品において知られる架空の人物の名称は、消費者にとって、作品中の登場人物に過ぎず、このような人物の名称をポスター、写真、動画、テレビ番組、舞台劇等に使用すると、関連消費者はそれが属する商品・役務内容の説明だと考えやすく、通常は識別性を有しない。
ただし、登場人物の名称と指定商品・役務の内容に直接関連性がない場合、識別性を有するものとする。
▼登録事例:
▼登録拒絶事例:
流行している又は人気の高い小説、映画、テレビドラマ、舞台作品に登場する架空の人物が商業的に利用されることは一般的であり、著名になり、架空の人物の名称が消費者の心に印象付けられ、出所を示す機能を有する場合、識別性を有し、登録を受けることができる。
商標所有者以外の者又は商標所有者の同意を得ていない者が登録出願を行い、消費者に出所を混同させる可能性、又はその識別性を損じる可能性がある場合、登録を許可しないものとする(商標法第30条第1項第11号)。
▼登録事例:
▼登録拒絶事例: